インコタームズ2020(Incoterms 2020)完全ガイド|11の貿易条件をE・F・C・Dグループ別に解説
対象
- 輸出入担当者
- 貿易実務者
- 物流・購買担当者
この記事でわかること
- インコタームズ2020の全11貿易条件
- E・F・C・Dグループごとのコストとリスクの違い
- 売主・買主の費用負担とリスク移転のポイント
- 日本貿易実務での選び方
- DAPとDPU、CIFとCIP、FOBとFCAの違い
- よくある質問(FAQ)
インコタームズ2020の改定背景
インコタームズ2020は、国際商業会議所(ICC)が2019年9月に発表し、2020年1月1日に発効した最新版の貿易条件です。従来のインコタームズ2010から、以下のような背景で改定されました。
- 国際貿易実務の変化への対応
商流・物流の多様化に合わせ、実務で使いやすいルールへ整理。 - コンテナ輸送・複合輸送の増加
在来船だけでなく、コンテナ輸送や複合輸送に適した条件の重要性が増加。 - 安全・セキュリティ要件の強化
テロ対策や貨物スクリーニングなど、輸送安全に関する義務と費用を明確化。 - L/C取引におけるFCAのB/L発行問題
FCA条件で、買主が運送人に指示し、売主へ船積み済みB/Lを発行させることが可能に。 - 保険付保水準の明確化
CIPはICC(A)など最高水準、CIFはICC(C)など最低水準の保険と明確化。 - DATからDPUへの変更
DAT(ターミナル渡し)がDPU(目的地荷卸し渡し)に変更され、荷卸し義務が明確化。 - 費用・安全義務の明確化
A9/B9条で費用を一覧化し、A4/A7条で安全義務を明確化。 - 自社輸送手段の利用を容認
FCA、DAP、DPU、DDPで、自社の輸送手段を使えることを明記。
インコタームズ2020の11用語一覧(売主のコスト・リスク順)
| 順位 | 略称 | 英語正式名称 | 日本語名称 | 適用輸送 | リスク移転時点 | 売主のコスト・リスクの特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | EXW | Ex Works | 工場渡し | すべての輸送方法 | 売主の施設で買主が貨物を処分可能になった時 | 売主のコスト・リスクが最小 |
| 2 | FCA | Free Carrier | 運送人渡し | すべての輸送方法 | 買主指定の運送人に貨物を引き渡した時 | 輸出通関は売主が担当 |
| 3 | FAS | Free Alongside Ship | 船側渡し | 海上輸送・内陸水運 | 本船の船側に貨物を置いた時 | 売主は船側まで |
| 4 | FOB | Free On Board | 本船渡し | 海上輸送・内陸水運 | 本船に貨物を積み込んだ時 | 売主は本船積込まで |
| 5 | CPT | Carriage Paid To | 運賃込み渡し | すべての輸送方法 | 第一運送人に貨物を引き渡した時 | 売主が主運賃を負担、リスクは前倒し移転 |
| 6 | CFR | Cost and Freight | 運賃込み(本船渡し) | 海上輸送・内陸水運 | 本船に貨物を積み込んだ時 | 売主が海上運賃を負担、リスクは前倒し移転 |
| 7 | CIP | Carriage and Insurance Paid To | 運賃保険料込み渡し | すべての輸送方法 | 第一運送人に貨物を引き渡した時 | 売主が運賃+高水準の保険を負担 |
| 8 | CIF | Cost, Insurance and Freight | 運賃保険料込み(本船渡し) | 海上輸送・内陸水運 | 本船に貨物を積み込んだ時 | 売主が海上運賃+最低限の保険を負担 |
| 9 | DAP | Delivered at Place | 目的地渡し | すべての輸送方法 | 目的地で輸送手段上、買主が処分可能になった時(荷卸し前) | 売主が目的地まで運送、荷卸しなし |
| 10 | DPU | Delivered at Place Unloaded | 目的地荷卸し渡し | すべての輸送方法 | 目的地で荷卸しを完了した時 | 売主が目的地まで運送+荷卸し |
| 11 | DDP | Delivered Duty Paid | 関税込み渡し | すべての輸送方法 | 目的地で買主が処分可能になった時 | 売主が輸入通関・関税まで負担、コスト・リスク最大 |
重要:Cグループは、売主が主運賃(および保険料)を負担するためコストは高いですが、リスクは積込地または第一運送人への引渡し時に移転します。コストとリスクが一致しない点に注意してください。
E・F・C・Dグループ別の解説
Eグループ:出発地渡し(売主の責任が最小)
EXW(工場渡し / Ex Works)
- 売主は自社工場・倉庫で貨物を準備するだけ。
- 輸出通関、積込、主運賃、保険、輸入通関はすべて買主が負担。
- リスク移転:買主が売主の施設で貨物を処分可能になった時。
- 売主のコスト・リスクが最も小さい条件。
Fグループ:主運賃未払込(買主が主輸送を手配)
FCA(運送人渡し / Free Carrier)
- 売主が輸出通関を行い、買主指定の運送人に貨物を引き渡す。
- すべての輸送方法に適し、特にコンテナ輸送に適する。
- リスク移転:買主指定の運送人に引き渡した時。
FAS(船側渡し / Free Alongside Ship)
- 売主が貨物を輸出港の本船船側まで運ぶ。
- 海上輸送・内陸水運のみ。
- リスク移転:本船の船側に貨物を置いた時。
FOB(本船渡し / Free On Board)
- 売主が買主指定の本船に貨物を積み込む。
- 海上輸送・内陸水運のみ。
- リスク移転:本船に貨物を積み込んだ時。
Fグループの共通点:売主は主運賃を負担せず、リスクは積込地または運送人引渡し時に買主へ移転。
Cグループ:主運賃払込(売主が運賃を負担するが、リスクは早期移転)
CPT(運賃込み渡し / Carriage Paid To)
- 売主が指定目的地までの運賃を負担。
- リスクは第一運送人に引き渡した時に移転。
- すべての輸送方法。
CFR(運賃込み・本船渡し / Cost and Freight)
- 売主が目的港までの海上運賃を負担。
- リスクは輸出港で本船に積み込んだ時に移転。
- 海上輸送・内陸水運のみ。
CIP(運賃保険料込み渡し / Carriage and Insurance Paid To)
- 売主が運賃を負担し、高水準の保険(ICC(A)等)を付保。
- リスクは第一運送人に引き渡した時に移転。
- すべての輸送方法。
CIF(運賃保険料込み・本船渡し / Cost, Insurance and Freight)
- 売主が海上運賃を負担し、最低限の保険(ICC(C)等)を付保。
- リスクは輸出港で本船に積み込んだ時に移転。
- 海上輸送・内陸水運のみ。
Cグループの關鍵:売主は運賃・保険料を負担しますが、リスクは目的地まで追いません。「運賃は払うが、リスクは早く移る」 のが特徴です。
Dグループ:到達地渡し(売主のコスト・リスクが最大)
DAP(目的地渡し / Delivered at Place)
- 売主が指定目的地まで貨物を運送。
- 荷卸しは買主が行う。
- 輸入通関・関税は買主負担。
- リスク移転:目的地で輸送手段上、買主が処分可能になった時(荷卸し前)。
DPU(目的地荷卸し渡し / Delivered at Place Unloaded)
- 売主が指定目的地まで貨物を運送し、荷卸しも行う。
- 輸入通関・関税は買主負担。
- インコタームズ2020で、**売主が荷卸しする唯一の条件**。
- リスク移転:目的地で荷卸しを完了した時。
DDP(関税込み渡し / Delivered Duty Paid)
- 売主が目的地まで運送し、輸入通関・関税も負担。
- 買主は貨物を受け取るだけ。
- 売主のコスト・リスクが最大。
- リスク移転:目的地で買主が処分可能になった時。
Dグループの共通点:売主が目的地までの全リスクと費用を負担。DAP/DPUは買主が輸入通関・関税を負担し、DDPは売主が負担。
コストとリスクの關鍵差異
| グループ | 売主のコスト | 売主のリスク | 説明 |
|---|---|---|---|
| E | 最小 | 最小 | 工場渡し。以降はすべて買主負担 |
| F | 低め | 積込地・運送人引渡し時に移転 | 売主は主運賃を負担しない |
| C | 高め(運賃・保険料) | 積込地・第一運送人引渡し時に移転 | コストとリスクが分離。売主は「運賃を払うが全リスクは負わない」 |
| D | 最大 | 目的地で移転 | 売主が目的地まで運送。DDPは輸入関税も負担 |
一言で覚える
- Eグループ:工場渡し
- Fグループ:買主が主輸送を手配
- Cグループ:売主が運賃を払うが、リスクは早く移転
- Dグループ:売主が目的地まで運送、DDPは関税込み
実務での選び方
| 状況 | 推奨条件 |
|---|---|
| 輸出後、一切の責任を負いたくない | EXW |
| 輸出通関は売主、輸送手配は買主 | FCA / FOB |
| 運賃は負担したいが、輸送リスクは負いたくない | CPT / CFR / CIP / CIF |
| 目的地まで運送したいが、輸入通関は買主 | DAP / DPU |
| 輸入通関・関税まで含めて一括対応したい | DDP |
DAPとDPUの違い
| 比較項目 | DAP | DPU |
|---|---|---|
| 日本語 | 目的地渡し | 目的地荷卸し渡し |
| 荷卸し | 買主が行う | 売主が行う |
| リスク移転 | 目的地で輸送手段上、買主が処分可能になった時(荷卸し前) | 目的地で荷卸しを完了した時 |
| 輸入通関・関税 | 買主負担 | 買主負担 |
| 適用輸送 | すべて | すべて |
DAP:売主は目的地まで運ぶが、荷卸しはしない。
DPU:売主は目的地まで運び、荷卸しもする。
CIFとCIPの保険水準の違い
| 比較項目 | CIF | CIP |
|---|---|---|
| 適用輸送 | 海上輸送・内陸水運 | すべての輸送方法 |
| リスク移転 | 本船積込時 | 第一運送人引渡し時 |
| 保険水準 | 最低限(ICC(C)等) | 高水準(ICC(A)等) |
| 運賃 | 売主負担 | 売主負担 |
CIFは伝統的な海上輸送向けの最低限保険。
CIPは複合輸送・コンテナ輸送を想定した高水準保険。
FOBとFCAの使い分け
| 比較項目 | FOB | FCA |
|---|---|---|
| 適用輸送 | 海上輸送・内陸水運 | すべての輸送方法 |
| リスク移転 | 本船積込時 | 運送人引渡し時 |
| 適する貨物 | 在来船・ばら積み貨物 | コンテナ貨物・複合輸送 |
| B/L発行 | 船積み後 | 買主の指示で船積み済みB/Lも可能 |
コンテナ輸送では、実務上 FCA の方が適切なケースが多くなっています。
在来船・ばら積み貨物では FOB が今でも一般的です。
よくある質問(FAQ)
まとめ
インコタームズ2020は、国際貿易における売主・買主の費用負担とリスク移転を明確にするための世界共通ルールです。全11条件をE・F・C・Dの4グループに分けて理解すると、実務での選択がしやすくなります。
- Eグループ:工場渡し。売主の責任が最小。
- Fグループ:買主が主輸送を手配。売主は主運賃を負担しない。
- Cグループ:売主が運賃・保険料を負担するが、リスクは早期移転。
- Dグループ:売主が目的地まで運送。DDPは輸入関税まで負担。
特に、DAPとDPUの荷卸し義務の違い、CIFとCIPの保険水準の違い、FOBとFCAの使い分けは、日本貿易実務でも頻出の重要ポイントです。契約書作成時は、ICC公式テキストや専門家の確認を必ず行ってください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的助言ではありません。実際の取引条件は、契約書、ICC Incoterms 2020公式テキスト、および専門家の助言に基づいて決定してください。